投稿

星新一 一〇〇一話をつくった人

星新一といえばショートショートだが、自身の父や祖父について書いた「人民は弱し 官吏は強し」や「明治・父・アメリカ」あるいは「祖父・小金井良精の記」を通して、明治から大正そして昭和にかけての時代風景を興味深く読み眺めたことが印象に残っている。 星新一の特徴ある、淡々と優しくそれでいて醒めている文章に潜むその創作の謎を、著者が星新一が遺したモノを整理したり、小松左京や筒井義隆らをはじめ、鶴見俊輔やタモリ(とも交友があったのね、知らなかった)など関係者への取材によって解きほぐしている。 それは父親である星一の急死にともない20代の若さで星製薬の社長として、まるでバブルの宴の後ともいえる魑魅魍魎の中に放り込まれ苦労して、まわりの誰をも信じられなくなっていた時期があり、なかば現実逃避の先にたまたまSFがあったからとの推察している。 また、ショートショートという新しい文学のジャンルを開拓しようとした小説家としての苦悩や文壇における評価の低さに愚痴る所や、手塚治虫のように星新一も自分の作品に後から手を入れていたことなど、(僕が知らなかっただけに)興味深いエピソードが盛り込まれている。 で、ショートショートというジャンルが確立していく過程を読んでいて、ちょうど高度経済成長期の日本の時代背景とショートショートの雰囲気がマッチしていたんだなということがわかっておもしろい。 星新一のショートショートは10代の頃読んだはずなのにすっかり忘れていたので、これを機に本書に取りあげられている「鍵」を改めて手にとってみた。なんだか今でも古くさくない感じが、今のショートフィルムのような短編やYouTube的な視聴スタイルに似合っているからなのかな、と。

hon-nin vol.02

イメージ
hon・ninという松尾スズキさんが音頭を取っているのかな?の雑誌というか季刊誌なのかな、これは。以前、町山智浩さんのブログで連載していると告知があったので、そこだけをパラパラと流し読みしたことがあったからピックアップ。 「書く本人、読む本人。本人という私、本人という他人」とサブタイトルにあるにあるように、自分語りというか私小説っぽい感じを集めたものです。頭の切り替えや気分転換で読む時というよりは、僅かにでも出来た暇な時間を活字で埋め尽くしたい時に、だらだら〜と文字を追うのに最適なのかもしれない。 一通り全部を読んでなにより"ビートたけしのオールナイトニッポン傑作選"という過去のラジオの活字起こしが(これはエアチェックしたテープを見つけて許可取ったのかな、と)、ちょうど過去のテレビ番組のアナログ映像をYouTubeで眺めるような感覚で、新鮮な感じでおもしろい。 hon-nin vol.02 著:宮藤 官九郎、安野 モヨコ、吉田 豪、本谷 有希子、町山 智浩、堤 幸彦、天久 聖一、池松 江美、せきしろ、松尾スズキ 出版社:太田出版 定価:998円 livedoor BOOKS 書誌データ / 書評を書く

先生、巨大コウモリが廊下を飛んでいます!—鳥取環境大学の森の人間動物行動学

リチャード・ドーキンスやコンラート・ローレンツの翻訳物での日高敏隆氏や、サル学方面での山極寿一氏などを読んで動物行動学周辺に関心があったので、本書のサブタイトルにある"森の人間動物行動学"という箇所に反応してピックアップ。 サブタイトルを見て初めて鳥取環境大学の存在を知りました。どうやら公設民営方式で(PFI方式といえば図書館などが思い浮かぶが、大学のケースもあるのか)最近というほどでもないが新設された大学のようだ。本書はそこで動物行動学を専門にしている著者が、自然あふれる大学での日々の生活で出会った動物のあれこれを記録したものです。 動物行動学の専門書と期待すると、いささか拍子抜けする面もある。むしろ 「もやしもん」 という農業大学を舞台にした学園マンガに似たテイストといえば伝わりやすいかな。新設された大学で何をやっているのか、具体的な日々の日常をわかりやすく一般向けに書かれているのでさくっと小一時間程度で読める。